血縁淘汰とは、自然選択による生物の進化を考える際に、個体が自ら残す子孫の数だけではなく、遺伝子を共有する血縁者の繁殖成功にも影響を与えることを考慮すべきだとする進化生物学の理論です。これによって、血縁個体に対する利他行動の進化を説明することができます。
血縁淘汰説の提唱者は、イギリスの進化生物学者、W.D.ハミルトンです。ハミルトンは、1964年に「血縁関係と利他的行動」という論文を発表し、血縁淘汰説を提唱しました。
ハミルトンは、血縁淘汰が進むための条件として、次の2つの条件を定式化しました。
利他行動のコストが、受益者の利益よりも小さいこと
利他行動と受益者の血縁関係が近いこと
これらの条件を満たす場合、利他行動によって受益者の繁殖成功が向上すれば、利他行動を支配する遺伝子は、受益者を通じて次世代に伝達される可能性が高くなります。
血縁淘汰説は、真社会性昆虫の進化を説明する上で重要な理論です。真社会性昆虫では、働きアリや働きバチは、繁殖をせずに、女王アリや女王蜂の繁殖を助けます。この働きアリや働きバチの行動は、自己犠牲的な行為であり、従来の自然選択の理論では説明が困難でした。しかし、血縁淘汰説を用いれば、これらの働きアリや働きバチの行動は、女王アリや女王蜂と共通の遺伝子を持つため、女王アリや女王蜂の繁殖を助けることによって、自分の遺伝子を次世代に残す可能性を高めようとする、利他的行動として説明することができます。
血縁淘汰説は、他の生物の行動の進化を説明する上でも重要な理論です。例えば、親が子育てをする行為や、兄弟姉妹が協力して生きる行為なども、血縁淘汰によって進化したと考えられています。